音楽担当だった2013月5月24日は、一生忘れられない日になった。「全ろうの作曲家」として話題の佐村河内守氏のインタビュー記事を書いた。「現代のベートーベン」「心の闇を照らす希望のシンフォニー」など感動的な見出しが並ぶ。紙面を眺めながら「佐村河内さんの人生の壮絶さを少しでも表現できただろうか」と少しの不安、多くの達成感を抱いた。
その年の初め頃から、すでに時の人だった。35歳を過ぎて全ろうになり、逆境に負けず作曲活動を続ける音楽家(という触れ込み)。CD「交響曲第1番『HIROSHIMA』」は20万枚近く売れ、テレビ番組で特集が組まれた。耳鳴り、頭痛に耐え、オムツを履いてのたうち回り、それでも創作活動を辞めない姿を見て、ぜひ取材したくなった。
レコード会社の担当者に「なるべく早く」と付け加え、インタビューのセッティングを依頼した。「調整が難しい。佐村河内さんの頭痛が止まるのは、1週間のうち2、3時間しかないらしいので」と言われたが、熱意が通じたのか、約1か月後にOKをもらった。
4月中旬、佐村河内氏の自宅がある横浜市へ向かった。道中すでに「1週間のうちの貴重な2時間を取材のために…」と落ち着かない。念願の対面を果たした佐村河内氏は、薄暗くした室内でサングラスをかけていた。迫力に圧倒された。取材中、質問を手話通訳の女性が伝える前に、佐村河内氏が返事をすることがあった。「分かるんですか?」と尋ねると「読唇術でね。少しだけなら」と、よどみない返答。「さすが、すごい人は違うな」と感心した。
年が明けた2月のある日、深夜2時に携帯電話が鳴った。夜勤をこなし、帰宅途中。デスクからだ。嫌な予感を感じつつ出ると「今、通信社からの速報が届いて。佐村河内さん、本当は聞こえていたらしいよ」。疲れはすっ飛び、頭の中は真っ白になった。すっかりだまされていた。怒り、落胆、後悔…。様々な思いが混ざり合い、翌日から続報を書く羽目になった。
取材中、「気を悪くするかな」と迷いつつ「もし耳が聞こえたら何が聞きたいですか?」と思い切って質問した。完成した曲が聴きたい、観客の拍手が聞きたい…。そんな答えを想像していた。意外な答えが返ってきた。「あなたの声です。曲や拍手は想像できる。でも、新たに出会った人の声は想像できない。ああ…聞きたいな、あなたの声」。感動した。
本当は聞こえていたのに。私の声がどんな音なのか知っていたのに。きっと、よくある質問に対する想定問答の一つとして、周到に用意されたコメントだったのだろう。
記者として好奇心や感動は大切にしたいと思う。思うのだが、この一件では反省ばかりが記憶に残る。当時、小学校低学年だった息子が絵を描いて見せてくれた時、やや大げさに「すごいな。お父さん感動したよ」と褒めてみた。すると…。「お父さんはそうやってすぐ感動するから、佐村河内さんにだまされたんだね」。反論できなかった。(浦本 将樹)
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May 24, 2020 at 10:00AM
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【2013年5月24日】「あなたの声が聞きたい」と現代のベートーベンは私に告げた(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース
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